特許制度と産学官連携-研究者や大学とか優遇してどうすんだろ-

産業構造審議会 知的財産政策部会 特許制度小委員会 報告書「特許制度に関する法制的な課題について」(案)に対する意見募集

特許制度改正の方向まとめた特許制度小委員会報告書案公表、意見募集

産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会


実は今回の意見案には、大学に関係のある点が2点掲載されている。


ユーザー利便性の向上の案として


1)大学・研究者等にも容易な出願手続きの在り方
2)グレースピリオドの在り方

の2つがあがっている。


この内容を読むと、はあって思う。

基本的に特許権とは排他的独占権、つまり当該技術に関して他者から独占できる権利である。
ディフェンス的に、他者に自社の技術を使わせなかったり、他者の類似技術と自分の技術の違いを明確にすることで、他者からの攻撃に備えたり、
オフェンス的に、自社の技術を使っている他者に対して攻撃したり、使いたいと思っている他者にライセンスして対価を得たりというものだ。


で、大学や研究機関というのは基本的に自らでは事業を行う事がない。
将来はわからないけど、当分は○○大学第一工場なんてのはできないだろう。
また、企業さんが特許侵害しているかどうかの調査なんてどうやって行う?そして、裁判できる??


ならば、企業さんなり事業したい人が望むような技術を、特許をつけてお渡しするのが一番という事だ。


だ・と・す・る・と、


研究者のために容易な出願にしたせいで、大した実施例ものっておらず、明細書も曖昧で、権利範囲もやけに狭くてふにゃふにゃで、
グレースピリオドを適用してしまっているせいで、大きな市場の一つである欧州で権利がとれない特許って、


つ・か・い・た・い・で・す・か?


これにプラスアルファ、サイエンスとして素晴らしいけど、事業という点でみるとまだまだ行く先が長いというのもつくんですけどね。


基本的に特許というのはその成り立ちから含めても、企業さんのものであって、研究者達のものではない。
ただ、最近、日本で言われているのは、いざ研究者達の先駆的な技術を使おうと思っても、権利的に守られていないから、使うに当たって他者の模倣等を防げないから、大学が特許をとっていれば、企業も安心して使えるよー!!
また、米国では特許のライセンス収入が大学の収入支えているから、日本の大学も特許を取れば企業さんからお金もらえるよー!!!、っていうライトなサクセスストーリーに基づくものだ。


そのストーリー自体は否定しない。一面では正しいと思うし、実際に収入をあげている事例もあるからだ。
それに、今まで菓子折り一つで、先生から話を聞いて、勝手にいろいろと自社技術にしているところもあったけど、そういうこすっからくて頭がよいところから、お金を巻き上げる正当な対価を得ることができるようになったのは、「研究者の知恵」に対して正当な値段が着くことになり、良いことだと思う。
やっぱり、一つの物事をとことん考え、追いつめ、洞察している「研究者達の知恵」というのは、常人にとっては画期的であったり、飛躍する可能性を与えてくれる素晴らしいものだし、それに値段がつくようになったのは個人的には良いことだと思っている。


ただ、特許制度となると別だ。
特許制度とはあくまで企業のものだ。研究者達のものではない。
現行の知的財産サイクル、イノベーション戦略の中で、日本の特許制度は日本の企業が飛躍するために必要なものであるべきだ、と個人的に思っている。
だとするならば、大学は純粋なユーザーだろうか。
どちらかというと、企業に対して特許を供給するメーカーだろう。


な・ら・ば、

大学に対して有利な特許制度に変更する必要なんて、どこにあるのだろうか。
大学に対して有利な特許制度に変更するせいで、不必要に脆弱な特許が生まれてくるのではないだろうか。


全ての大学の研究成果を特許化する必要はないだろう。
研究分野や研究成果にとっては、権利化しても権利存続期間の20年間では十分にペイしない可能性のものもあるだろうし、
ある先生の一連の素晴らしい研究成果があるとしても、アーリーステージ過ぎるものは、権利化せず、実用化ステージにのりそうなものだけ、権利化するという戦略も考えられる。その逆もしかり。
ただ、現行の制度改正の方向は、そういう細かな戦略動向の前に、
国家制度として脆弱な特許を生み出す可能性を高めているのではないか、そういう制度改正なんじゃないかと思い、はあって思うのだ。


特にグレースピリオドが残ることは、研究者からすれば、
「発表しても半年以内なら出願可能なんでしょ?」
って意識になるだけなんだと思う。


本当は、
「発表前に出願するのが原則だけど、たまたま救済措置があるんですよ?」
ってことなのに。


個人的にはEUのように、グレースピリオドなんてやめてしまえばいい。
その方が、研究者にとっても迷いが少なくなると思う。
分野的に特許化した方がよさそうな研究成果なら、出願してから発表すればいいし、
逆もしかり。
選択肢がわかりやすくなる。


中途半端に使いにくい制度は廃止した方がいいと思うんだけどなあ。
正直、海外の学会に対し、なんか必要書類が発生した時に、アポ取るのってのはストレスなんだけどなあ。
おれらはユーザーじゃないのかなー。